2012年2月4日土曜日

アルジェリア1959/アサド氏に退陣を求める国々

アメリカで暮らしていた頃に公開され、ずっと観たいと思っていた映画。ツタヤの無料クーポンがあったので、数年ぶりにDVDを借りた。邦題が「いのちの戦場」ってまるで見当違いなものが付いていたので、見つけるのにたいへん苦労した。


アメリカ人が撮ったベトナム戦争の映画本数に比べれば、アルジェリア戦のフランス映画というのは、それほど多くもない。けれどこの映画は、本当に素晴らしい出来だった。ヒューマニズムを感じさせないのがいい。過酷な戦場では仲間たちが次々に倒れる。戦友が死ぬと取り敢えず悲しいわけだけど、後にひきずらない。次のシーンでは、その倒れた兵士など最初からいなかったかのように扱われる。"戦場は悲惨ですよ"というお説教じみたアピールをしない(きっと国産の戦争映画が大抵つまらないのはこの辺りに原因があると思う)。


クリスマスの夜のシーンはとても印象的だ。先の戦闘で倒れた若い兵士が戦地で回していたフィルムを上映する。最初の内は、そこに映る懐かしい戦友の姿に歓声を上げる。死んでしまった兵士も生き残っている兵士もヒゲを剃ったりビールを飲んだり、そんな戦地での日常を淡々と映している。映像が進むと、次第に言葉少なになってゆく。別に絶望したり、悲しんでいるわけではないのだ。だが、これほど戦場で生き残った人間の心境を語るシーンは他になかった。

シリアではアサド大統領の退陣を求めるデモが続き、内戦状態が懸念されている。状況は流動的だ。米英仏を始め、周辺のアラブ諸国がアサド氏を声高に非難している一方、国連加盟国間では意見が対立し、非難決議の内容についての妥協点を探る動きが出てきた。アサド氏が本当に住民を虐殺しているのか、今ひとつはっきりしない。彼はなぜ、ほとんど国益が結びつかないような日本のメディアにまでボロクソに叩かれているのだろう。

アサド氏は多民族国家のシリアでおよそ10%を占めるイスラム教アラウィ派に属している。人口の過半数を占めるスンニ派を牽制し、その支持は同じく10%のキリスト教マロン派教徒の間にも広がっている。つまり、シリアが多民族・多宗教国家として比較的安定した基盤を保っているのは、少数派の代表者であるアサド氏が安定した権力を握っているからとも言える。実際、隣国レバノンからは度々の政変の影響でマロン教徒が難民としてシリアへ流れ込んだ。

当然、この状況を面白く思わないのは周辺のスンニ系アラブ国家だ。アラブ連盟と聞けばいかにも中立然とした組織のようだが、その実は中心国であるサウジとヨルダンによるスンニ派連盟という見方も出来る。国内の報道にはこの視点が欠けている。欧米は自国のエネルギー政策とイスラエルを脅かすイラン、シリア、レバノンの枢軸国とは必ず敵対する。彼らの中東でのパートナーは基本的にスンニ派勢力だ。アサド氏を非難しているのはこの同盟であって、我々は「国際世論」などというものを牧歌的に信じてはならない。

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