2012年4月9日月曜日

サンフランシスコのホームレス

羽田到着まであと一時間十五分というアナウンスが流れました。サンフランシスコからの帰りの機内でこれを書いています。滞在期間中は昼間外を駆けまわって夜はそれを文書にまとめたり日本の仕事を処理しなければならなかったり、とても忙しかったです。持参したカラマゾフの兄弟も、ベッドで2,3ページ捲らぬ内に睡魔に屈服してしまう毎日。その分帰りの機内では簡単な仕事を済ました後で、コーヒーをお代わりしながらずっと読んでました。

ユニオンスクエアそばのPark55に滞在していたのですが、朝晩には付近をよく散歩しました。有名なケーブルカーの券売所が目の前にあるホテルで、9時も過ぎると観光客が列をなすような所ですが、1ブロック裏に入ると身なりのよくないアフリカ系の人たちが路上に座り込んでいるエリアが広がっています。まさしく失業者が街に溢れかえっている状態で、数年前に訪れた時より遥かに悪くなっていると感じました。無心を乞うホームレスも沢山いました。足を失っている人が多いのですが、帰還兵なのでしょう。アメリカでは心身にひどい傷を受けた退役軍人の失業が、常態化した社会問題となっています。

私もドルを持ち込んだものの使う宛があまりないので、大人しそうなホームレスを選んで1ドルから5ドルくらい与えていました。皆、アメリカの平均的なカフェ店員のような調子でサンキューとお礼を言いました。すごくまともな印象です。言動がクレイジーなホームレスも中にはいましたが、他人に危害を加えるという気配はありません。

彼らは生活の中で他人からリスペクトされる機会がほぼ皆無なのだと思います。失業して路上生活者になった理由は一人ひとり異なるでしょうが、私はこの点が非常に重要だと思います。できればドル札と一緒にリスペクトを相手に伝わる形で表現したかったのですが、これが難しい。あいさつと世間話がせいぜいです。持て余したお釣りのコインを投げつけるだけのアメリカ人旅行者には、ホームレスに対する憐れみはあるのかもしれませんが、リスペクトは決してありません。

人からリスペクトされることがない人間は、他人をリスペクトすることが出来ません。私たちは無意識の内に相手をリスペクトし、また相手からリスペクトを受け取る、そういうソーシャルなネットワークの中で日々を過ごしています。彼らホームレスは、そのネットワークの外にいる。サンフランシスコでの仕事に一区切りがついてからは、ずっとそんな事を考えています。

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